第7回 ピアノとチェンバロの違いを、分かりやすく解説!

Cembalo(チェンバロ:ドイツ語)は、Harpsichord(ハープシコード:英語)、Clavecin(クラヴサン:フランス語)、Clavicembalo(クラヴィチェンバロ:イタリア語)とも呼ばれることがあります。

チェンバロの起源は明らかではありませんが、1397年に書かれた書物にチェンバロについて記載されていることから、少なくとも600年以上の歴史があるものと考えられます。
バロック時代(1600~1750年)の全盛期には、宮廷音楽に用いられ、とても華やかに時代を彩りました。
しかし18世紀末になると、ピアノの発明と急速な発展により、チェンバロの人気は衰えていきます。

ピアノとチェンバロは形も似ていて、どちらも鍵盤を指で押さえて演奏しますので、見た目にはあまり変わらないように見えます。
何か違いはあるのでしょうか?

ピアノとチェンバロの違いについて、分かりやすく解説しちゃいます!


違い その1.「音を出す仕組み」

ピアノはハンマーで叩いて弦を振動させて音を出す「打弦楽器(だげんがっき)」、チェンバロは爪で弾くことによって弦を振動させて音を出す「撥弦楽器(はつげんがっき)」です。
ピアノの音が「ポーン」ならば、チェンバロは「チーン」という感じです。

チェンバロは、ピックで弾くギターや、爪で弦を弾く琴に近く、下図のように、鍵盤を押すとプレクトラム(ツメ)が弦を弾くという方法で音を鳴らします。


違い その2.「音の特徴」

チェンバロの演奏では、ピアノの演奏にはない「サッ」という音が聞こえます。これは、ジャックがジャック自体の重みで落ちる(ジャックが戻る時の)音がわずかに出るためです。(ジャックが戻る時は、プレクトラムが弦を回り込むようになっているので、再び弦が弾かれることはありません)

また、チェンバロ程たくさんの倍音(ばいおん:基本となる音の周波数の倍の周波数を持つ音)を含む楽器はない、と言われる程、チェンバロはピアノよりはるかに多くの倍音成分を含んでいます。
これもチェンバロの音の特徴で、チェンバロらしい音色を構成する要素の一つになっています。
ピアノはこの倍音をできるかぎり少なくし、純正の音のみをキレイに出せるように作られたと言われています。(強い音で弾いたり、ペダルを使用すると倍音が増えますが)


違い その3.「演奏技法」

チェンバロはその構造上、音の強弱を付けることができません。それが初期のピアノであるフォルテピアノの発明に至る一因にもなりました。
フォルテピアノは強い音(フォルテ)も弱い音(ピアノ)も出せる、そして音を長引かせるペダルもある、チェンバロにはない特徴を持った画期的な楽器だったのです。

チェンバロは、音の強弱ではなく、アーティキュレーション(それぞれの音の結び付け方や区切り方)や、アゴーギク(速度を速くしたり遅くしたりと微妙に揺らし、音の表情や動きに変化をつける技法)を駆使して、繊細なタッチとしなやかなリズム感を表現して演奏します。

ブランシェのチェンバロ
▲ DVD1巻で取り上げているチェンバロ
プレイエルのピアノ
 ▲ DVD2巻で取り上げているフォルテピアノ

違い その4.「黒鍵と白鍵」

初期(18世紀以前)のチェンバロは、現在のピアノと同じようにシャープ・フラットの鍵盤が黒色のものがほとんどです。
しかし、本DVD1巻で取り上げているブランシェのチェンバロをはじめとした18世紀のモデルは、それとは逆で、現在のピアノの白鍵の部分が黒色、黒鍵の部分が白色になっています。
白鍵・黒鍵が逆転したこのタイプが、チェンバロとしては一般的によく知られています。

なぜ白鍵・黒鍵が逆転したのでしょうか?
それには諸説ありますが、主に以下の3つの理由と考えられています。


・弾き易さ

チェンバロの鍵盤はスプリング等の装置ではなく、鍵盤自身の自重で待機位置に戻ります。
したがって、表に出ている鍵盤よりも裏の鍵盤部分の方が重くなければ戻りません。
つまり、重い象牙で作られた白鍵はキー全体が重くなり、軽い黒檀(こくたん)で作られた黒鍵はキー全体の重量が抑えられるのです。
この重量の違いはわずかなものですが、演奏するとタッチの違いが感じられ、長時間演奏すると明らかに指や手の疲労度が違ってきます。
ですから、重たい白鍵を、数が少ないシャープ・フラットキーに使用しました。

・手を映えさせるため

この時代の貴族の女性のたしなみとして、チェンバロ演奏することが流行しました。
白い肌が絶対的な美徳とされたこの時代。女性は顔だけではなく手にもたくさんの白粉をはたいています。
そんな女性たちの手が、より白く美しく映えるよう、数多い方の鍵盤を黒くしたそうです。

・コストを抑えるため

白鍵は「象牙」、黒鍵は「黒檀(こくたん)」や「紫檀(したん)」という木で作られていました。
共に高価な物でしたが、特に象牙は当時「金」と同じくらい入手困難で高価だったそうで、コストを少しでも抑えるため、数が少ないシャープ・フラットキーを象牙の白鍵にしました。
(現在のピアノの白鍵は、プラスチックを使用しているものがほとんどです。)


以上のように、演奏上、見た目、経済的理由があっての逆転だったんですね。

では、そのように考えられて作られた白鍵と黒鍵が、なぜ再び逆転し、現在の形になったのでしょうか?

それは、

1. 視覚的に「白」は浮きあがって見え、「黒」は引っ込んで見えるため、
  実際に張り出しているシャープ・フラットキーを黒くした方が見た目のバランスが良く、安定感が出る

2. 白を主体とした方が明るく、見た目で好まれることが増えた

からだそうです。


違い その5.「鍵盤の数」

チェンバロはモデルによって様々で、1段鍵盤や2段鍵盤のもの、さらにまれに3段鍵盤になっているものがあり、音域は4~6オクターブです。
以降、徐々に鍵盤数が増え、現在のピアノは1段鍵盤の88鍵(7オクターブ強)に落ち着いています。

なぜ88鍵なのでしょう?

それには、ちょっと科学的な理由があるのです。
人間の耳が聴きとれる周波数は20~2万ヘルツと言われていますが、その中で音程を聴き分けられるのは、だいたい50~4000ヘルツくらいです。
88鍵の一番低い“ラ”の音は27ヘルツ。一方、一番高い“ド”の音は、約4200ヘルツ。
つまり、これ以上鍵盤を増やしても、人間の耳にはノイズにしか聞こえないので、88鍵盤になっているのです。


違い その6.「ビジュアルへのこだわり」

チェンバロは貴族のための楽器でした。
宮殿や教会、庭園、そしてドレスなども豪奢を極めたバロック時代。その時代の家具と調和する楽器として、音色のみならず装飾も繊細に、華麗にとされました。
つまり楽器としてだけではなく、芸術品としての意義もあったわけです。

その後、農業革命や産業革命などのブルジョワ(中産階級)の台頭と共に発展したピアノは、中産階級向けにコストを抑えるため、装飾を省いたシンプルなものが主流となりました。


違い その7.「調律」

チェンバロの弦の張力はピアノよりはるかに弱くなっています。
そのため弦が緩む頻度もピアノより頻繁になり、演奏者は演奏のみならず、演奏の都度、自ら調律する必要があります。



どうですか?
一見そっくりに見えるピアノとチェンバロですが、実はこんなに違いがあるんですね。
そもそも音の出る仕組みからして違うのですから、両者はまったく別の楽器と言えます。

ピアノはチェンバロを元にして考えられましたが、チェンバロの進化したものがピアノ、ではなく、チェンバロとピアノは別物だということです。

本DVDでは、演奏しているの手元の映像なども収録され、間近でチェンバロを体感して頂くことができます。
華麗なチェンバロの響きに、ぜひ耳を傾けてみてください。
チェンバロならではの魅力が、きっとあなたにも伝わることと思います。


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