第10回 「長唄三味線」DVDに載せられなかった”おまけ”

DVD第4巻「長唄三味線」はいかがでしたでしょうか?
長唄の世界を楽しんで頂けましたでしょうか?

本シリーズは浜松市楽器博物館のレクチャーコンサートの映像をもとにしていますが、1回のコンサートを丸々収録するわけにはいきません。 残念ながら制作の過程で割愛せざるを得なかった演奏曲や楽しいシーン、ためになるお話がたくさんありました。 また、こんな解説も加えたい・・・という内容も、様々な制約でボツ。

今回は、そんな載せられなかった “おまけ” のお話です。

おまけ その1 京鹿子娘道成寺の歌詞

京鹿子娘道成寺は舞踊曲です。歌舞伎のこの演目はやはり踊りを楽しむのが第一義でしょう。とはいえこの曲は、長唄の曲としても名曲とされています。


踊りだけで表現する舞台には、あまり複雑なストーリーは不向きですが、白拍子の花子が次々に披露する踊りにはそれぞれ唄がついているので、その唄を聞くと「あぁ、こんな踊りをやっているんだな」と心情が見えてきます。


さて、DVD収録曲は「まり唄」で、その歌詞は以下のようなものです。

京鹿子娘道成寺
   演劇博物館所蔵
    (No.101-6002)
まり唄

♪ 恋の分里武士も道具を伏編笠で 張りと意気地(いきじ)の吉原
花の都は歌で和らぐ敷嶋原(しきしまばら)に 勤めする身は誰と伏見の墨染


煩悩菩提の撞木町(しゅもくまち)より 浪花四筋(なにわよすじ)に通ひ木辻に 禿立ち(かむろだち)から室の早咲き それがほんに色ぢゃ 一ィ二ゥ三ィ四ゥ(ひいふうみいよう)


夜露雪の日 志もの関路(せきじ)も今宵此の身を馴染重ねて 中は丸山只丸かれと思ひ染めたが縁ぢゃへ ♪



最初に出てくる分里とは遊廓のことだそうです。 「分け」というのは、芸妓さんがお客さんから頂いた花代を店の主人と分けることで、それが語源となっているようです。
この唄には、江戸の吉原を振り出しに各地の遊廓が読み込まれています。 そして「嶋原にお勤めしている私は・・・ただ円満にと思い染めたのが二人の縁なんです」と遊女の言葉を借りて恋の想いを表現しているのですね。

役者さんは舞台が進むにつれてだんだんと妖気を漂わせてくる花子を演じ分けて、最後「鐘入り」の踊りで終わるのです。 そして花子は何度も衣裳を変えたりして大変華やかです。 その中には引抜(ひきぬき)といって舞台の上で一瞬にして衣裳を変える手法も含まれています。

歌舞伎を見に行くことは、江戸時代の人たちにとって、忙しい日常の仕事や家事を忘れる素晴しい時間だったことでしょう。 長唄をきっかけに、演奏と唄と踊りが一体となった生の舞台をぜひ見てみたいですね。


おまけ その2 せりふと音楽との関わり

DVDでは「浅草寺裏の場」で、お芝居と音楽との関わりを解説していますが、レクチャーコンサートでは、その他にもお芝居の中のせりふと音楽がどういう風に関わっていくのかを実際の演奏で見せてくれています。 お芝居は、もちろんせりふがとても重要ですからね。

このとき実演されたのは、歌舞伎「白波五人男」第4幕目、稲瀬川勢揃の場における日本駄右衛門のせりふで、稲瀬川に5人の盗賊が勢揃いして、日本駄右衛門が名前を名乗る場面でした。


白波五人男
演劇博物館所蔵(No.101-1052,101-1051,101-1050)

「問われて名乗るもおこがましいが、生まれは遠州浜松在(えんしゅうはままつざい)。十四の年から親に別れ…」と長々と名乗るのです。

別の「雪の下浜松屋の場」での弁天小僧菊之助の口上は、「声に出して読みたい日本語」(齋藤孝著)にも取り上げられている「知らざあ言って聞かせやしょう」で始まる有名なせりふなので、ご存知の方も多いでしょう。

三味線方はこのせりふの間をうまくぬって違和感なく演奏するのが腕の見せどころなのだそうです。


このやり方は、DVDの「解説付き浅草寺裏の場」にも現れています。 杵屋邦寿さんが解説している隣で、松永鉄九郎さんがそのしゃべりを邪魔しないよう絶妙に絡んで音楽をつけていらっしゃいますね。 身についたプロの技です。

浅草寺裏の場

ついでながら、DVD「解説付き浅草寺裏の場」の中で三人吉三の「月も朧に白魚の」というせりふを引用した場面がありますが、これは最後に「こいつは春から 縁起がいいわえ」で終わる有名なせりふです。


三人吉三
演劇博物館所蔵(No.101-2781,101-2782,101-2783)

旧暦の大晦日に厄払いをするために調子のよい七五調のせりふを言って回る習慣があったそうですが、これを歌舞伎に持ち込んだのが「月も朧に白魚の」というせりふや、先に述べた日本駄右衛門や弁天小僧菊之助の口上の言い回しでした。
日常の生活の中にある風景がお芝居にも持ち込まれていて、人々は身近な話として歌舞伎のドラマを楽しんだのですね。



さて、おまけのお話いかがでしたでしょうか。

長唄三味線の方たちは、出囃子と黒御簾のどちらの形で演奏するにせよ、常に舞台の上で繰り広げられる踊りやお芝居と一体となった演奏を求められました。
最初にご紹介した「まり唄」では、役者さんがまりを持って踊り、三味線方はその振りに合わせて演奏していくシーンがありますが、まりを持った役者さんがつまずいたりなど、舞台上ではいろいろなハプニングが起こることも・・。 三味線方の人たちはそんなハプニングにもちゃんと対処できるよう、様々なことを想定した演奏を考えてあるそうです。 そして長い時間の中で、そのアドリブにすら名人たちは名演奏を披露してきました。

またせりふにしても、ご紹介したようなせりふは今も文化の中に生きていて、長唄や歌舞伎を知らなくても、どこかで出くわしたりします。 私たちの歴史の中で蓄積された素晴らしいものが、過去のものではなく、ちゃんと今につながって活きているのです。

そんな歴史の中で膨大な広がりのある長唄の世界を、ほんの少しですが全体像が見えるような形でご紹介したのが、楽器の世界コレクションDVDシリーズ 第4巻「長唄三味線」です。
楽しんでお手元に置いて頂けますと幸いです。


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