第11回 チェンバロの種類を、ざっくりタイプ別にご紹介!

みなさんは、「え!? これも”チェンバロ”!?」と思った経験はありませんか?
この鍵盤楽器はピアノなのか、チェンバロなのか、それともまた別のものなのか・・。
なかなか判断が難しいですよね・・。
パッと見て見分けが付く方は、結構な”通”ですね。 (^-^)

それでは今回は、発売以来大変好評を頂いております「第1巻 ブランシェのチェンバロ」で取り上げた「チェンバロ」の種類についてご紹介します。

「第2巻 プレイエルのピアノ」のような「ピアノ」発明以前の鍵盤楽器は、発音方法により大きく3種に分けられます。

・オルガン(気鳴式)
・チェンバロ(撥弦式)
・クラヴィコード(打弦式)

そもそも「チェンバロ」とは?  -「チェンバロ」の定義-

チェンバロとは、弦を弾く鍵盤楽器(撥弦鍵盤楽器)の総称として呼ばれたり、撥弦鍵盤楽器の中で、グランド型(グランドピアノのような形)の形状のものを指したりもします。
(撥弦鍵盤楽器の仕組みは、「ピアノとチェンバロの違いを、分かりやすく解説!」参照)

チェンバロの誕生には、2つの楽器が大きく関わっています。

1つは、9世紀頃に東方からヨーロッパへもたらされた「プサルテリウム」。
プサルテリウムは、吟遊詩人たちや教会で使われていました。
共鳴箱に金属弦を張ってチューニングピンで張力が調節された楽器で、ブリッジを通して響板に振動を伝えて音量を拡大する構造になっています。
胸に抱えての演奏、膝や机の上での演奏など、様々な演奏方法をとれるのが特徴です。
中世の宗教画によく描かれている、天使が持っている三角形の楽器がこのプサルテリウムです。
後に登場する弓で弾くタイプのものは、ただ指で弾くものと区別され、「ボウド・プサルテリー」と呼ばれます。

プサルテリウム
プサルテリウム
IROM BOOK GAKKIPEDIA
楽器図鑑 より

もう1つは、「オルガン」です。
オルガンは、紀元前にはその原形にあたるものが存在し、1世紀には完成していたとみられています。
加圧した空気を、鍵盤で選択したパイプに送ることで管楽器のように発音し(気鳴式)、現在では、電子オルガンと区別して「パイプオルガン」と呼ばれています。

パイプオルガン
パイプオルガン
IROM BOOK GAKKIPEDIA
楽器図鑑 より

チェンバロは、プサルテリウムの弦を、オルガンと同じように鍵盤によって操る、という構造で誕生しました。
こうして吟遊詩人と教会のものだった音楽が、貴族たちのサロンへと場を移していったのです。
そしてバロック時代(1600~1750年)を華やかに飾ります。


チェンバロは、イタリアで生まれ、オランダで発達し、フランス、ドイツ、イギリスへと広まっていったとされています。
バロック時代の音楽は国によって様式が異なっていましたが、それらの曲のあり方に対応して、チェンバロやオルガンといった鍵盤楽器も国によって変化に富んでいました。


各 撥弦鍵盤楽器の名称がしばしば混用されているのは、形状ごとに呼び名が生まれたのではなく、国によって異なった呼び方をしていたためです。


ここでは、現在もっとも多く使われている「形状による分類」に従い、クラヴィツィテリウム、クラヴィコード、チェンバロ、スピネット、ヴァージナルとに分けて見ていきます。

注意:前述した通り各名称の定義はあいまいであり、分類条件は「絶対」ではありません。
   「そういうものが比較的多い」という認識としてご理解頂ければと思います。


クラヴィツィテリウム

クラヴィツィテリウム
クラヴィツィテリウム
Wikipedia より
「チェンバロ」の起源として最も古いもので、1397年にオーストリアのヘルマン・ポールが「クラヴィチェンバルム」という40鍵の楽器を考案したと、ニューグローヴ世界音楽大事典に記されています。
チェンバロがパイプオルガンを元に考案されたということは前述しましたが、その名残りなのか、クラヴィツィテリウムは響板が垂直に立てられた、38鍵の縦型チェンバロです。
この省スペースの原理が、後のアップライト・ピアノにも用いられることになります。
縦型のためジャックが水平に働き、自重では戻って来ないため、スプリングや地面に垂直な鍵盤の動きを水平な動きに変換するという装置を付けなければならず、その結果通常のチェンバロよりタッチが重く、アクションの反応も鈍いという欠点があります。


チェンバロ

チェンバロ
チェンバロ
浜松市楽器博物館所蔵
1646 Francesco Marchioni
ここではグランド・ピアノ型のものを「チェンバロ」と位置付けます。
チェンバロはモデルによって様々で、1段鍵盤や2段鍵盤のもの、さらにまれに3段鍵盤になっているものがあり、鍵盤数は48~72鍵です。

グランド型(フリューゲル型(フリューゲル=つばさ)とも呼ばれます)にしたことで、楽器自体を大きくして音域を広げることが可能になりました。

また、後述する「スピネット」や「ヴァージナル」と一番異なるところでもありますが、多くの場合、チェンバロは同じ高さの弦がひとつの鍵盤に1本ではなく、2~3本張ってあり、1本だけが鳴るようにしたり、あるいは2~3本が同時に鳴るようにしたりと、鍵盤近くの「カプラー」という切り替えの連結装置(手や膝で操作するレバータイプや、足で操作するペダルタイプなどがあります)を操作して、曲想に応じて同時に鳴らす弦の数と組み合わせを自在に変えることができます。
1段鍵盤のチェンバロは1つの鍵盤に対して2本の弦が連動、2段鍵盤のチェンバロでは1つの鍵盤に対して3本の弦が連動し、そのうちの1本が1オクターブ高く調律される、というのが一般的です。

チェンバロは、その発音構造のためキータッチによって音の強弱が付けられません。
そのため、一回の打鍵で2本の弦が同じピッチまたはオクターブ間隔で鳴るように調律されていると、一つの音のように聞こえ、かつ2弦で鳴らされるために、より大きく豊かに響きます。

また、チェンバロは小型のものでも簡単に移動させることはできないため、家具調度品の一つとして考えられていました。
そのため、蓋の裏や響板に絵(風景や植物、唐草模様など)が描かれたり、側面や台(脚)に彫刻や象嵌(ぞうがん)などによる豪華な装飾が施されました。

このように、ルネサンス的様式美を備えた美しい外観、そして強くて丸みのあるアタック(鳴り始め)と、尊厳のある響きやドラマチックな表現力。そして5人を超えるような大編成のアンサンブルにも向いた、豊かな音量。
これらの特徴は、当時の各国の音楽家、音楽愛好家たちに熱狂的に支持され、チェンバロは急速に広まっていき、バロック音楽の花形楽器となったのです。



スピネット(ベントサイド・スピネット)

スピネット
スピネット
浜松市楽器博物館所蔵
1760 John Harris
17世紀中頃にイタリアで考案され、その後ヨーロッパ全域に広まったとされています。
箱に入れて容易に持ち運びができる、新しいスタイルのチェンバロとして普及し、18世紀後期まで作られ続けました。
弦が鍵盤に対して斜め(一般的には約30度)に張られており、形は三角形、五角形、六角形など色々あります。標準のもので56鍵です。
スピネット(小さな)の名前の通り、通常のグランド型チェンバロを歪めて小さくした小型チェンバロであり、チェンバロに極めて近い音色を持ちます。
しかしチェンバロよりも音量が小さく、小編成(2~3人)のアンサンブルに向いています。


ヴァージナル

ヴァージナル
「ヴァージナルの前に座る女」
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)所蔵
1672 Johannes Vermeer
弦が鍵盤に対して平行に張られており、長方形の箱型の小型チェンバロです。外見的にはクラヴィコードと良く似ています。一般的には38鍵です。
スピネットよりもさらに音量が小さく、家庭用チェンバロとも言われていました。
チェンバロと比べると、基音が強く倍音の弱い、太くて暖かい音がします。

楽器全体を四角い箱で囲ったため、鍵盤横にスペースができました。
そのスペースは小物入れとして利用され、裁縫箱や宝石箱、化粧箱としてなど、ヴァージナルは家具としても重宝されました。
また蓋を閉じれば机になるため、手紙を書いたり、アイロンをかけたり、裁縫したりなど、女主人の居場所としても重宝され、ヴァージナルを弾け、嫁入り道具として持ち込むことが、中流階級以上の女性の嗜みでもありました。

15~16世紀にかけてイタリア各地で製作され、その後フランドル地方(現在のオランダ南部、ベルギー西部、フランス北部にかけての地域)で大量に製作されました。
そして16世紀後半にはエリザベス朝時代のイギリスで大流行し、イギリスには「ヴァージナル楽派」と称される鍵盤音楽の流派まで誕生しました。
イギリス・ヴァージナル楽派の音楽は、初期鍵盤音楽の魅力的なレパートリーとして、現代に至るまで多くの愛好家を持っています。

ヴァージナルは、鍵盤位置によって2タイプに分けられています。

・ミュゼラー・ヴァージナル

鍵盤が本体の右側か中央に配置されているタイプ。
弦の中央付近で弾くために、プレクトラムがまだ響いている弦に再度触れるということが難しく、低音部の連打が困難になるという特性があります。
このことから、ミュゼラーは複雑な左手のパートを持たない、旋律と和声の組合わせのような曲に向いています。
16、17世紀には人気がありましたが、18世紀にはあまり使われなくなっていきました。
チェンバロに比べて太くて暖かい音がします。

・スピネット・ヴァージナル

鍵盤が本体の左側に配置されているタイプ。
チェンバロと鍵盤位置が同じため、比較的チェンバロに近い音質を持っています。


クラヴィオルガヌム

クラヴィオルガヌム
クラヴィオルガヌム
ウィーン美術史博物館所蔵
1785 Franz Xaver Christoph
チェンバロやヴァージナル、クラヴィコード、フォルテ・ピアノをオルガンに組み合わせ、一台にしたものです。(オルガンを組み込んだ鍵盤楽器は、いずれも「クラヴィオルガヌム」と総称されます。)

クラヴィオルガヌムは単に別々の楽器を上下に積み上げただけという単純なものではなく、カプラー(連結装置)を備えていて、両方の楽器の音を同時に鳴らすことができる複合鍵盤楽器です。
16世紀から18世紀にかけて盛んにヨーロッパ各地で製作されました。
クラヴィオルガヌム
   スクエア・ピアノ部分
クラヴィオルガヌム
     オルガン部分


以上、チェンバロを形状によってざっくり4つにタイプ分けしてみましたが、この他にも、国や時代、製作者などによっても様々なタイプがあり、それぞれの文化が感じられます。

17世紀までは、オルガン、チェンバロ、クラヴィコードなどの鍵盤楽器は、それぞれ独自の曲を持たず、同じ音楽を共有していました。
17世紀後半からそれぞれの楽器にふさわしい音楽が作られていき、18世紀にはチェンバロは全盛期を迎えます。
しかし、革命などによる貴族社会の崩壊や、18世紀半ば頃のフォルテピアノの発明、普及などにより、チェンバロはだんだんその姿を表舞台から消していきました。
現在では、19世紀末頃からの古楽器を新たに見直す風潮により、バロック音楽を好む愛好家、演奏家たちによって再び親しまれています。


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