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第14回 楽器博探訪 その2 チェンバロの音とピアノの音

前回は「楽器博探訪その1」として、浜松市楽器博物館についてご紹介しましたが、「その2」ではチェンバロとピアノの音についてご紹介したいと思います。
スタッフの方に実演もして頂きましたので、ピアノとチェンバロの音の違いなどを、どうぞご覧ください。


チェンバロとピアノの音はどう違うんでしょうか? それぞれ弾いてみて頂けますか?

スタッフ:はい。では同じ曲をチェンバロとピアノで弾いてみます。


1750 ジェイコブ・カークマン
  実演に使用したチェンバロ
1750 ジェイコブ・カークマン



1995 クリストフォリ製ピアノの復元モデル
  実演に使用したピアノ
1995 クリストフォリ製ピアノの
    復元モデル


「ピアノ」は1700年頃、チェンバロ製作家のクリストフォリにより発明されました。
今回使用したピアノは、現存する3台のクリストフォリ・ピアノをもとに、1995年に復元されたものです。
このピアノは、音色はチェンバロと非常によく似ています。それは、チェンバロをもとにして中のアクションを変えて作ったのがピアノだからです。
ピアノを開発するに至った目的の一つが、チェンバロにはない「キーのタッチによって音の強弱をつける(フォルテからピアノの音まで出せる)機能を作る」ということだったと思われますので、音自体についてはあまり変化を求めなかったのかもしれません。


音量が変えられるかどうかということなんですね。
チェンバロは音の強弱を付けられないんですか?

嶋館長:チェンバロの音量が変わらないというのは、奏者の指のタッチでは変わらないという意味です。もちろん高級なチェンバロでは、ひとつの音を鳴らすのに、はじく弦の数を変えることで、音量を少しは変化させることができますが、タッチでは変えられないのです。
ピアノは奏者がキーを強く押すか弱く押すかで音量が変わります。
音量をタッチで変えれるかどうかということが、大きな違いです。

スタッフ:チェンバロはタッチによって強弱を出せないので、弦の数を変えて音量や音色を変えます。弦の数を変えるには、レバーや、上下の鍵盤や、時にはペダルで切り替えます。
曲の途中で瞬間的に雰囲気を変えることができるんです。こんな感じです。





左映像:
チェンバロの上鍵盤、下鍵盤、
ペダルを踏んだ時の音の変化

チェンバロが愛好された歴史は、15世紀から18世紀末までと大変長く、そのため外観や仕様、音色などもさまざまです。
一般的にはペダルのないタイプが主流ですが、後期にはイギリスでペダルを備えたものも作られました。
今回実演に使用したチェンバロは、1750年イギリス(イングランド)のカークマンが製作したものです。


チェンバロを弾くのは難しいですか?

スタッフ:そうですね。楽器によってさまざまな特徴があるので、それぞれの楽器を弾き分けるのは難しいです。


チェンバロの音は響き続けますか?

スタッフ:はい。鍵盤を押すと音が鳴り響いて、ピアノと同じようにだんだん音が減衰していって消えますが、指を離せばダンパーが下りて、すぐに音が消えます。


チェンバロを演奏する時には、どういうところに気を付けて弾いていますか?

スタッフ:私は専門ではないのであまりうまく弾けませんが、やはりフレーズの区切り方とか、メロディーの唄わせ方とか、チェンバロならではのものがあります。
チェンバリストの方は、きっといろいろなテクニックで工夫をされているのでしょうね。


ピアノを弾く時には何か気を付けていることはありますか?

スタッフ:意識しながら、強く出すところは出して、弱めるところは弱めて。その変化を楽しむというか、その変化をつけるのがピアノかなと思います。
それと、このピアノだと現在のピアノみたいにがんがん弾けません。力まかせに弾くと壊れてしまいます。今のピアノみたいに強いタッチでは弾けませんね。


ピアノの楽譜とチェンバロの楽譜は何か違いがありますか?

嶋館長:五線譜という点では同じですが、ピアノとチェンバロで違うというよりも、時代時代によって楽譜が違うんですよ。
チェンバロが盛んだった時代の楽譜というのは、楽譜に書いてあることは少なくて、チェンバロ奏者が自分でその楽譜にいろいろと付け加えて弾いていました。
しかしピアノという楽器が発明されてから現代に至るまで、作曲家が楽譜にびっしり書き込むわけですね。
ですから演奏家の人はあんまりそれ以外のことを弾いてはいけないと、そうなってきていますね。
もちろんケースバイケースで、そんなことはないのですけどね。

ピアノとチェンバロだけじゃなくて、フルートでもバイオリンでも、昔は簡単な楽譜でしたが、今はびっしりと書いてあります。そういう違いでしょうね。
チェンバロの楽譜をピアノでも弾けるけれども、音楽はチェンバロの響きに合ったようにできているので、ピアノで弾いても良い響きが出るとは限らない。
逆に今のピアノの楽譜をチェンバロで弾こうとしても、音が足らないとかね、いろいろあるわけですよ。
例えば、チェンバロでゆっくりとした曲は演奏できますが、速い曲は無理、とかね。そもそも音楽が違うんです。



貴重なお話をありがとうございました。

2回に渡って浜松市楽器博物館をご紹介しましたが、その魅力がお伝えできたましたでしょうか?
世界全域のさまざまな楽器を3000点以上収蔵し、世界第一級規模を誇る浜松市楽器博物館。
みなさんもぜひ足をお運びください。 (^-^)

楽譜についての解説は、「第11回 ピアノとチェンバロの違い – 楽譜編 -」にも載せておりますので、合わせてご覧ください。

チェンバロの音をもっと聴いてみたい、見てみたいという方は、ぜひ当シリーズのDVDを手にとってご覧ください。
第1巻「ブランシェのチェンバロ」は、1765年にパリでブランシェによって製作され、今も華麗な音を響かせているチェンバロについて、演奏と解説でご紹介しています。


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第12回 ピアノとチェンバロの違い – 楽譜編 –

ピアノとチェンバロの楽器の違いについては、「ピアノとチェンバロの違いを、分かりやすく解説!」でご紹介しました。
発音の仕組み、音の特徴、演奏技法、鍵盤数、などなど・・、ピアノとチェンバロはまったくの別物だ!という程のたくさんの違いがありました。

しかし、例えばチェンバロ用に作られたJ.S.Bach(バッハ)の曲など、現代ではチェンバロ曲をチェンバリストでなくてもピアノで一般的に演奏しています。
楽器自体の特徴がこんなに違うのに、もし同じ楽譜なら全然違う曲になってしまいそうな・・?

そこで今回は、「ピアノとチェンバロの違い – 楽譜編 – 」として、当時の原典版の楽譜と、現在ピアノ用に市販されている楽譜の違いを見て行きたいと思います。


通奏低音

実はチェンバロは、通奏低音(つうそうていおん)という主にバロック音楽において行われる伴奏形態で演奏されています。

通奏低音とは、楽譜上には低音部の旋律のみが示されているもので、演奏者はその通奏低音に適切な和音を付けて演奏するのです。


通奏低音
数字付き低音とそのリアライズの例
Wikipedia より
記譜された音に和音を付け加える作業(リアライズ)を補助するために、音符に和音の構成音の記譜音からの音程を示す数字を付けてある数字付き低音もあります。
なんだかコードネーム(和音記号)と似ていますね。

数字は低音からの音程の度数を表すもので、例えば”3″とあれば、低音の上3度の所に音があることを示しています。
ただし、実際にそれらの音をどのオクターブに置くかは演奏者に任され、演奏者は和声的に正しくなるように、4声や3声で演奏しなければなりません。
当然和声的な正しさだけでなく、音楽的に優れたものであることが要求され、且つ、アレンジした自由な装飾を付けることも求められるのです。

その他にも、原典版(作曲者が書いただけ)の楽譜には強弱記号もスラーも指番号も、曲調を構成する指示すら書かれていません。
そのため、実用性を求める声に応じて、作曲者の弟子たちや楽譜編集者たちによってだんだん手が加えられ、現在のピアノ楽譜のような「解釈版」の楽譜が出て来ました。
ということはもしかしたら、現在の “とっても親切” なピアノ楽譜は、当時の作曲者本人たちのイメージと違うかもしれませんね。

原典版の楽譜で演奏するチェンバロは、演奏者によって、また同じ演奏者でも毎回1つとして同じもののない、即興での演奏なんですね。
次にチェンバロの演奏を耳にする機会には、ぜひその即興演奏にも注目して聞いてみてください。


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第11回 チェンバロの種類を、ざっくりタイプ別にご紹介!

みなさんは、「え!? これも”チェンバロ”!?」と思った経験はありませんか?
この鍵盤楽器はピアノなのか、チェンバロなのか、それともまた別のものなのか・・。
なかなか判断が難しいですよね・・。
パッと見て見分けが付く方は、結構な”通”ですね。 (^-^)

それでは今回は、発売以来大変好評を頂いております「第1巻 ブランシェのチェンバロ」で取り上げた「チェンバロ」の種類についてご紹介します。

「第2巻 プレイエルのピアノ」のような「ピアノ」発明以前の鍵盤楽器は、発音方法により大きく3種に分けられます。

・オルガン(気鳴式)
・チェンバロ(撥弦式)
・クラヴィコード(打弦式)

そもそも「チェンバロ」とは?  -「チェンバロ」の定義-

チェンバロとは、弦を弾く鍵盤楽器(撥弦鍵盤楽器)の総称として呼ばれたり、撥弦鍵盤楽器の中で、グランド型(グランドピアノのような形)の形状のものを指したりもします。
(撥弦鍵盤楽器の仕組みは、「ピアノとチェンバロの違いを、分かりやすく解説!」参照)

チェンバロの誕生には、2つの楽器が大きく関わっています。

1つは、9世紀頃に東方からヨーロッパへもたらされた「プサルテリウム」。
プサルテリウムは、吟遊詩人たちや教会で使われていました。
共鳴箱に金属弦を張ってチューニングピンで張力が調節された楽器で、ブリッジを通して響板に振動を伝えて音量を拡大する構造になっています。
胸に抱えての演奏、膝や机の上での演奏など、様々な演奏方法をとれるのが特徴です。
中世の宗教画によく描かれている、天使が持っている三角形の楽器がこのプサルテリウムです。
後に登場する弓で弾くタイプのものは、ただ指で弾くものと区別され、「ボウド・プサルテリー」と呼ばれます。

プサルテリウム
プサルテリウム
IROM BOOK GAKKIPEDIA
楽器図鑑 より

もう1つは、「オルガン」です。
オルガンは、紀元前にはその原形にあたるものが存在し、1世紀には完成していたとみられています。
加圧した空気を、鍵盤で選択したパイプに送ることで管楽器のように発音し(気鳴式)、現在では、電子オルガンと区別して「パイプオルガン」と呼ばれています。

パイプオルガン
パイプオルガン
IROM BOOK GAKKIPEDIA
楽器図鑑 より

チェンバロは、プサルテリウムの弦を、オルガンと同じように鍵盤によって操る、という構造で誕生しました。
こうして吟遊詩人と教会のものだった音楽が、貴族たちのサロンへと場を移していったのです。
そしてバロック時代(1600~1750年)を華やかに飾ります。


チェンバロは、イタリアで生まれ、オランダで発達し、フランス、ドイツ、イギリスへと広まっていったとされています。
バロック時代の音楽は国によって様式が異なっていましたが、それらの曲のあり方に対応して、チェンバロやオルガンといった鍵盤楽器も国によって変化に富んでいました。


各 撥弦鍵盤楽器の名称がしばしば混用されているのは、形状ごとに呼び名が生まれたのではなく、国によって異なった呼び方をしていたためです。


ここでは、現在もっとも多く使われている「形状による分類」に従い、クラヴィツィテリウム、クラヴィコード、チェンバロ、スピネット、ヴァージナルとに分けて見ていきます。

注意:前述した通り各名称の定義はあいまいであり、分類条件は「絶対」ではありません。
   「そういうものが比較的多い」という認識としてご理解頂ければと思います。


クラヴィツィテリウム

クラヴィツィテリウム
クラヴィツィテリウム
Wikipedia より
「チェンバロ」の起源として最も古いもので、1397年にオーストリアのヘルマン・ポールが「クラヴィチェンバルム」という40鍵の楽器を考案したと、ニューグローヴ世界音楽大事典に記されています。
チェンバロがパイプオルガンを元に考案されたということは前述しましたが、その名残りなのか、クラヴィツィテリウムは響板が垂直に立てられた、38鍵の縦型チェンバロです。
この省スペースの原理が、後のアップライト・ピアノにも用いられることになります。
縦型のためジャックが水平に働き、自重では戻って来ないため、スプリングや地面に垂直な鍵盤の動きを水平な動きに変換するという装置を付けなければならず、その結果通常のチェンバロよりタッチが重く、アクションの反応も鈍いという欠点があります。


チェンバロ

チェンバロ
チェンバロ
浜松市楽器博物館所蔵
1646 Francesco Marchioni
ここではグランド・ピアノ型のものを「チェンバロ」と位置付けます。
チェンバロはモデルによって様々で、1段鍵盤や2段鍵盤のもの、さらにまれに3段鍵盤になっているものがあり、鍵盤数は48~72鍵です。

グランド型(フリューゲル型(フリューゲル=つばさ)とも呼ばれます)にしたことで、楽器自体を大きくして音域を広げることが可能になりました。

また、後述する「スピネット」や「ヴァージナル」と一番異なるところでもありますが、多くの場合、チェンバロは同じ高さの弦がひとつの鍵盤に1本ではなく、2~3本張ってあり、1本だけが鳴るようにしたり、あるいは2~3本が同時に鳴るようにしたりと、鍵盤近くの「カプラー」という切り替えの連結装置(手や膝で操作するレバータイプや、足で操作するペダルタイプなどがあります)を操作して、曲想に応じて同時に鳴らす弦の数と組み合わせを自在に変えることができます。
1段鍵盤のチェンバロは1つの鍵盤に対して2本の弦が連動、2段鍵盤のチェンバロでは1つの鍵盤に対して3本の弦が連動し、そのうちの1本が1オクターブ高く調律される、というのが一般的です。

チェンバロは、その発音構造のためキータッチによって音の強弱が付けられません。
そのため、一回の打鍵で2本の弦が同じピッチまたはオクターブ間隔で鳴るように調律されていると、一つの音のように聞こえ、かつ2弦で鳴らされるために、より大きく豊かに響きます。

また、チェンバロは小型のものでも簡単に移動させることはできないため、家具調度品の一つとして考えられていました。
そのため、蓋の裏や響板に絵(風景や植物、唐草模様など)が描かれたり、側面や台(脚)に彫刻や象嵌(ぞうがん)などによる豪華な装飾が施されました。

このように、ルネサンス的様式美を備えた美しい外観、そして強くて丸みのあるアタック(鳴り始め)と、尊厳のある響きやドラマチックな表現力。そして5人を超えるような大編成のアンサンブルにも向いた、豊かな音量。
これらの特徴は、当時の各国の音楽家、音楽愛好家たちに熱狂的に支持され、チェンバロは急速に広まっていき、バロック音楽の花形楽器となったのです。



スピネット(ベントサイド・スピネット)

スピネット
スピネット
浜松市楽器博物館所蔵
1760 John Harris
17世紀中頃にイタリアで考案され、その後ヨーロッパ全域に広まったとされています。
箱に入れて容易に持ち運びができる、新しいスタイルのチェンバロとして普及し、18世紀後期まで作られ続けました。
弦が鍵盤に対して斜め(一般的には約30度)に張られており、形は三角形、五角形、六角形など色々あります。標準のもので56鍵です。
スピネット(小さな)の名前の通り、通常のグランド型チェンバロを歪めて小さくした小型チェンバロであり、チェンバロに極めて近い音色を持ちます。
しかしチェンバロよりも音量が小さく、小編成(2~3人)のアンサンブルに向いています。


ヴァージナル

ヴァージナル
「ヴァージナルの前に座る女」
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)所蔵
1672 Johannes Vermeer
弦が鍵盤に対して平行に張られており、長方形の箱型の小型チェンバロです。外見的にはクラヴィコードと良く似ています。一般的には38鍵です。
スピネットよりもさらに音量が小さく、家庭用チェンバロとも言われていました。
チェンバロと比べると、基音が強く倍音の弱い、太くて暖かい音がします。

楽器全体を四角い箱で囲ったため、鍵盤横にスペースができました。
そのスペースは小物入れとして利用され、裁縫箱や宝石箱、化粧箱としてなど、ヴァージナルは家具としても重宝されました。
また蓋を閉じれば机になるため、手紙を書いたり、アイロンをかけたり、裁縫したりなど、女主人の居場所としても重宝され、ヴァージナルを弾け、嫁入り道具として持ち込むことが、中流階級以上の女性の嗜みでもありました。

15~16世紀にかけてイタリア各地で製作され、その後フランドル地方(現在のオランダ南部、ベルギー西部、フランス北部にかけての地域)で大量に製作されました。
そして16世紀後半にはエリザベス朝時代のイギリスで大流行し、イギリスには「ヴァージナル楽派」と称される鍵盤音楽の流派まで誕生しました。
イギリス・ヴァージナル楽派の音楽は、初期鍵盤音楽の魅力的なレパートリーとして、現代に至るまで多くの愛好家を持っています。

ヴァージナルは、鍵盤位置によって2タイプに分けられています。

・ミュゼラー・ヴァージナル

鍵盤が本体の右側か中央に配置されているタイプ。
弦の中央付近で弾くために、プレクトラムがまだ響いている弦に再度触れるということが難しく、低音部の連打が困難になるという特性があります。
このことから、ミュゼラーは複雑な左手のパートを持たない、旋律と和声の組合わせのような曲に向いています。
16、17世紀には人気がありましたが、18世紀にはあまり使われなくなっていきました。
チェンバロに比べて太くて暖かい音がします。

・スピネット・ヴァージナル

鍵盤が本体の左側に配置されているタイプ。
チェンバロと鍵盤位置が同じため、比較的チェンバロに近い音質を持っています。


クラヴィオルガヌム

クラヴィオルガヌム
クラヴィオルガヌム
ウィーン美術史博物館所蔵
1785 Franz Xaver Christoph
チェンバロやヴァージナル、クラヴィコード、フォルテ・ピアノをオルガンに組み合わせ、一台にしたものです。(オルガンを組み込んだ鍵盤楽器は、いずれも「クラヴィオルガヌム」と総称されます。)

クラヴィオルガヌムは単に別々の楽器を上下に積み上げただけという単純なものではなく、カプラー(連結装置)を備えていて、両方の楽器の音を同時に鳴らすことができる複合鍵盤楽器です。
16世紀から18世紀にかけて盛んにヨーロッパ各地で製作されました。
クラヴィオルガヌム
   スクエア・ピアノ部分
クラヴィオルガヌム
     オルガン部分


以上、チェンバロを形状によってざっくり4つにタイプ分けしてみましたが、この他にも、国や時代、製作者などによっても様々なタイプがあり、それぞれの文化が感じられます。

17世紀までは、オルガン、チェンバロ、クラヴィコードなどの鍵盤楽器は、それぞれ独自の曲を持たず、同じ音楽を共有していました。
17世紀後半からそれぞれの楽器にふさわしい音楽が作られていき、18世紀にはチェンバロは全盛期を迎えます。
しかし、革命などによる貴族社会の崩壊や、18世紀半ば頃のフォルテピアノの発明、普及などにより、チェンバロはだんだんその姿を表舞台から消していきました。
現在では、19世紀末頃からの古楽器を新たに見直す風潮により、バロック音楽を好む愛好家、演奏家たちによって再び親しまれています。


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第7回 ピアノとチェンバロの違いを、分かりやすく解説!

Cembalo(チェンバロ:ドイツ語)は、Harpsichord(ハープシコード:英語)、Clavecin(クラヴサン:フランス語)、Clavicembalo(クラヴィチェンバロ:イタリア語)とも呼ばれることがあります。

チェンバロの起源は明らかではありませんが、1397年に書かれた書物にチェンバロについて記載されていることから、少なくとも600年以上の歴史があるものと考えられます。
バロック時代(1600~1750年)の全盛期には、宮廷音楽に用いられ、とても華やかに時代を彩りました。
しかし18世紀末になると、ピアノの発明と急速な発展により、チェンバロの人気は衰えていきます。

ピアノとチェンバロは形も似ていて、どちらも鍵盤を指で押さえて演奏しますので、見た目にはあまり変わらないように見えます。
何か違いはあるのでしょうか?

ピアノとチェンバロの違いについて、分かりやすく解説しちゃいます!


違い その1.「音を出す仕組み」

ピアノはハンマーで叩いて弦を振動させて音を出す「打弦楽器(だげんがっき)」、チェンバロは爪で弾くことによって弦を振動させて音を出す「撥弦楽器(はつげんがっき)」です。
ピアノの音が「ポーン」ならば、チェンバロは「チーン」という感じです。

チェンバロは、ピックで弾くギターや、爪で弦を弾く琴に近く、下図のように、鍵盤を押すとプレクトラム(ツメ)が弦を弾くという方法で音を鳴らします。


違い その2.「音の特徴」

チェンバロの演奏では、ピアノの演奏にはない「サッ」という音が聞こえます。これは、ジャックがジャック自体の重みで落ちる(ジャックが戻る時の)音がわずかに出るためです。(ジャックが戻る時は、プレクトラムが弦を回り込むようになっているので、再び弦が弾かれることはありません)

また、チェンバロ程たくさんの倍音(ばいおん:基本となる音の周波数の倍の周波数を持つ音)を含む楽器はない、と言われる程、チェンバロはピアノよりはるかに多くの倍音成分を含んでいます。
これもチェンバロの音の特徴で、チェンバロらしい音色を構成する要素の一つになっています。
ピアノはこの倍音をできるかぎり少なくし、純正の音のみをキレイに出せるように作られたと言われています。(強い音で弾いたり、ペダルを使用すると倍音が増えますが)


違い その3.「演奏技法」

チェンバロはその構造上、音の強弱を付けることができません。それが初期のピアノであるフォルテピアノの発明に至る一因にもなりました。
フォルテピアノは強い音(フォルテ)も弱い音(ピアノ)も出せる、そして音を長引かせるペダルもある、チェンバロにはない特徴を持った画期的な楽器だったのです。

チェンバロは、音の強弱ではなく、アーティキュレーション(それぞれの音の結び付け方や区切り方)や、アゴーギク(速度を速くしたり遅くしたりと微妙に揺らし、音の表情や動きに変化をつける技法)を駆使して、繊細なタッチとしなやかなリズム感を表現して演奏します。

ブランシェのチェンバロ
▲ DVD1巻で取り上げているチェンバロ
プレイエルのピアノ
 ▲ DVD2巻で取り上げているフォルテピアノ

違い その4.「黒鍵と白鍵」

初期(18世紀以前)のチェンバロは、現在のピアノと同じようにシャープ・フラットの鍵盤が黒色のものがほとんどです。
しかし、本DVD1巻で取り上げているブランシェのチェンバロをはじめとした18世紀のモデルは、それとは逆で、現在のピアノの白鍵の部分が黒色、黒鍵の部分が白色になっています。
白鍵・黒鍵が逆転したこのタイプが、チェンバロとしては一般的によく知られています。

なぜ白鍵・黒鍵が逆転したのでしょうか?
それには諸説ありますが、主に以下の3つの理由と考えられています。


・弾き易さ

チェンバロの鍵盤はスプリング等の装置ではなく、鍵盤自身の自重で待機位置に戻ります。
したがって、表に出ている鍵盤よりも裏の鍵盤部分の方が重くなければ戻りません。
つまり、重い象牙で作られた白鍵はキー全体が重くなり、軽い黒檀(こくたん)で作られた黒鍵はキー全体の重量が抑えられるのです。
この重量の違いはわずかなものですが、演奏するとタッチの違いが感じられ、長時間演奏すると明らかに指や手の疲労度が違ってきます。
ですから、重たい白鍵を、数が少ないシャープ・フラットキーに使用しました。

・手を映えさせるため

この時代の貴族の女性のたしなみとして、チェンバロ演奏することが流行しました。
白い肌が絶対的な美徳とされたこの時代。女性は顔だけではなく手にもたくさんの白粉をはたいています。
そんな女性たちの手が、より白く美しく映えるよう、数多い方の鍵盤を黒くしたそうです。

・コストを抑えるため

白鍵は「象牙」、黒鍵は「黒檀(こくたん)」や「紫檀(したん)」という木で作られていました。
共に高価な物でしたが、特に象牙は当時「金」と同じくらい入手困難で高価だったそうで、コストを少しでも抑えるため、数が少ないシャープ・フラットキーを象牙の白鍵にしました。
(現在のピアノの白鍵は、プラスチックを使用しているものがほとんどです。)


以上のように、演奏上、見た目、経済的理由があっての逆転だったんですね。

では、そのように考えられて作られた白鍵と黒鍵が、なぜ再び逆転し、現在の形になったのでしょうか?

それは、

1. 視覚的に「白」は浮きあがって見え、「黒」は引っ込んで見えるため、
  実際に張り出しているシャープ・フラットキーを黒くした方が見た目のバランスが良く、安定感が出る

2. 白を主体とした方が明るく、見た目で好まれることが増えた

からだそうです。


違い その5.「鍵盤の数」

チェンバロはモデルによって様々で、1段鍵盤や2段鍵盤のもの、さらにまれに3段鍵盤になっているものがあり、音域は4~6オクターブです。
以降、徐々に鍵盤数が増え、現在のピアノは1段鍵盤の88鍵(7オクターブ強)に落ち着いています。

なぜ88鍵なのでしょう?

それには、ちょっと科学的な理由があるのです。
人間の耳が聴きとれる周波数は20~2万ヘルツと言われていますが、その中で音程を聴き分けられるのは、だいたい50~4000ヘルツくらいです。
88鍵の一番低い“ラ”の音は27ヘルツ。一方、一番高い“ド”の音は、約4200ヘルツ。
つまり、これ以上鍵盤を増やしても、人間の耳にはノイズにしか聞こえないので、88鍵盤になっているのです。


違い その6.「ビジュアルへのこだわり」

チェンバロは貴族のための楽器でした。
宮殿や教会、庭園、そしてドレスなども豪奢を極めたバロック時代。その時代の家具と調和する楽器として、音色のみならず装飾も繊細に、華麗にとされました。
つまり楽器としてだけではなく、芸術品としての意義もあったわけです。

その後、農業革命や産業革命などのブルジョワ(中産階級)の台頭と共に発展したピアノは、中産階級向けにコストを抑えるため、装飾を省いたシンプルなものが主流となりました。


違い その7.「調律」

チェンバロの弦の張力はピアノよりはるかに弱くなっています。
そのため弦が緩む頻度もピアノより頻繁になり、演奏者は演奏のみならず、演奏の都度、自ら調律する必要があります。



どうですか?
一見そっくりに見えるピアノとチェンバロですが、実はこんなに違いがあるんですね。
そもそも音の出る仕組みからして違うのですから、両者はまったく別の楽器と言えます。

ピアノはチェンバロを元にして考えられましたが、チェンバロの進化したものがピアノ、ではなく、チェンバロとピアノは別物だということです。

本DVDでは、演奏しているの手元の映像なども収録され、間近でチェンバロを体感して頂くことができます。
華麗なチェンバロの響きに、ぜひ耳を傾けてみてください。
チェンバロならではの魅力が、きっとあなたにも伝わることと思います。


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第3回 初めての中ホール

2007年12月1日、浜松市楽器博物館のコンサート「18世紀ヴェルサイユ・クラヴサン音楽の美の世界」が行われました。主役は皆さんもご存知の「ブランシェのチェンバロ」。この楽器が初めて楽器博物館の建物の外に出て行われたコンサートです。


アクトシティ浜松中ホール

コンサートが行われた場所はアクトシティ浜松中ホール。浜松市楽器博物館のすぐお隣、徒歩5分もかからない距離にあります。クラシック音楽のために音響設計された、浜松ならではのコンサートホールです。浜松国際ピアノコンクールなど多彩なイベントが行われています。特徴的なのが、ステージの背面に設置されている大きなパイプオルガン。4年の歳月をかけて製作され、なんと4500本近くのパイプがあるそうです。


運搬

ブランシェ初の「お出かけ」はコンサート前日に行われました。美術品専門の運搬業者に依頼しての大仕事です。なにせ250歳以上の高齢ですから、湿度が少し変わっただけでも木の具合など部品に影響が出て、音色が狂ってしまいます。温度・湿度など厳密に管理されたトラックに積み込み、お隣のホールに運び込むのに、なんと3時間以上もかかったそうです。


会場についてから

無事に会場にたどり着いたものの、ブランシェはうまく鳴ってくれませんでした。「急にこんなところにつれてきて、何をするのか」とびっくりしてしまったのではないかな、と嶋館長。楽器は生きているのだそうです。他の楽器でも、使われている材料によっては、少しの湿度の違いでチューニングが変わることがあります。製作されて250年以上たったブランシェともなれば、環境に慣れるのにも時間がかかりそうです。少しでも良い音をお客さんに届けるため、ブランシェが「気に入る」場所を探して、ステージ上の配置までも慎重に決められました。細かい調整の甲斐あってか、次の日の朝にはブランシェもだいぶ鳴ってくれるようになっていました。

ブランシェのチエンバロ

そして・・・

本番。中ホールに集まったお客さんの前で、ブランシェは見事素晴らしい演奏を聞かせてくれました。その背景にはスタッフの皆さんによる数々の苦労があったのです。コンサートを成功させた細かい気配りは、ブランシェのことを何年も見守ってきた経験があったから可能だったのではないかと思います

この様子はNHKの「クラシック倶楽部」という番組の中で紹介されました。コンサート本番はもちろん、調律やリハーサルの様子なども密着して取材されています。今でも再放送が行われているようです。DVDと併せてご覧ください。

ブランシェのチエンバロ

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第2回 18世紀フランスの作曲家たち

先日、浜松市楽器博物館で行われた中野振一郎さんのコンサートに行ってきました!今回は、なんとブランシェのチェンバロでバッハやウィーン音楽を演奏するという新しい試み。最初は別の収録の合間に冗談で弾いていたとのことですが、この美しい響きは冗談にしておくにはもったいない、ということになったのだそうです。演奏が始まると会場の雰囲気は一変。優雅な18世紀のヴェルサイユから、にぎやかな19世紀のウィーンへ。時代も国も違う異色の組み合わせだけに、「ブランシェ(のチェンバロ)が怒ってしまわないように」と中野さんはおっしゃっていましたが、とても素敵なコンサートでした!

さて、このコーナー第2回はDVD第1巻に収録されている曲の作曲家について、ちょっとだけご紹介します。当時のフランスを代表する面々というと、私はどうしても「ベルサイユのばら」の登場人物を何人か思い浮かべてしまいますが、どんな人々だったのでしょうか。


フランソワ・クープラン(1668~1733)

F.クープランはロココ音楽を代表する音楽家です。クープラン家は代々王室お抱えの音楽一家でしたが、中でもF.クープランは特に偉大な存在と言われています。後世の作曲家にも多様な影響を与えており、ラヴェルの作品の中には「クープランの墓」というタイトルの曲があります。甥のアルマン・ルイ・クープランも作曲家として活躍しましたが、彼はブランシェ家の娘と結婚しています。王室お抱えの音楽家と楽器職人の家という組み合わせ、なんだか素敵ですね。

F.クープラン
F.クープラン

ジャン・フィリップ・ラモー(1683~1764)

ラモーもまたロココを代表する作曲家です。「劇場的な華やかさと旋律美を兼ね備え、鍵盤楽器演奏の名手といえばこの人物」と中野さんも評しています。若い頃は音楽ではなく法律を学んでいたようです。フォルクレが作った「ラモー」という曲があるのですが、こちらは低音がきいた力強い曲になっています。「優しい訴え」は繊細で控えめな女性のような印象があるのですが、作品と人物はまた別物のようです。

J.Ph.ラモー
J.Ph.ラモー

ジャック.デュフリ(1715~1789)

デュフリは当時のフランスでとても人気の高いチェンバロ奏者でした。「三美神」はブランシェの音色の美しさを最大に引き出すことができる名曲。彼が亡くなったのは1789年7月15日、フランス革命勃発の引き金となったバスティーユ牢獄襲撃の翌日です。事件にびっくりしたのでしょうか?きっとその作品のように繊細な人だったんだろうなあと想像しています。


アントワーヌ・フォルクレ(1671/2~1745)

フォルクレはヴィオールの奏者で、彼の息子がチェンバロ用に編曲したのだそうです。「ジュピター」では最後に全能の神ゼウスが雷が落とす描写がありますが、みなさんはどの場所かわかりましたか?彼には「悪魔」というあだ名がつけられていたそうですが、一体何をしたのでしょうか。気になるところです。

A.フォルクレ
A.フォルクレス

250年も前の作曲家たちですが、残された記録から少しずつ人物像が浮かび上がってきます。一度、フランス・ヴェルサイユに行って彼らの足跡を探してみたいなあと思いました。


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第1回 ブランシェの生きた時代

さて、第1回では、当シリーズの第1巻にも収録されている「ブランシェのチェンバロ」が作られた時代についてご紹介します。

展示室でもひときわ華やかなオーラを放っているこのチェンバロ。1765年にフランスのパリで製作されたものです。

製作者はフランソワ・エティエンヌ・ブランシェ2世。といっても最初からご存知の方は中々いらっしゃらないかもしれません。ブランシェ家はフランス王室御用達の楽器一家です。特にブランシェ2世のお父さんであるブランシェ1世は、当時の発刊された「百科全書」という本に、パリで最も名声の高いチェンバロ製作者であったと述べられています。もちろん、息子のブランシェ2世もとても優れた製作者でした。


マリー・アントワネットが生きた時代

18世紀のフランスといえば、マリー・アントワネットが生きた時代。このチェンバロが作られたのは1765年ですが、マリー・アントワネット(マリア・アントーニア)がオーストリアで誕生したのが1755年。ヴェルサイユ宮殿で結婚式を行ったのが14歳だった1770年のことですから、この楽器はマリー・アントワネットがフランスに来た頃と同時期に、しかもとても近くに存在していたと考えられます。王室御用達の楽器製作者が作った楽器ですから、もしかしたらヴェルサイユで使われていた可能性もありますね。

マリー・アントワネットの結婚式の様子
マリー・アントワネットの結婚式の様子

ヴィクトワール

ちなみに、フランス王室に嫁いだマリー・アントワネットですが、夫ルイ16世の叔母の一人にヴィクトワールという人物がいます。DVD第1巻に収録されている「ヴィクトワール」は、この人のことを表現した曲なんですよ。

ヴィクトワール・ド・フランス
ヴィクトワール・ド・フランス

ヴィクトワールは、姉妹であるアデライードやソフィーと共に、王太子妃となったマリー・アントワネットに近づき、父ルイ15世の愛人デュ・バリー夫人と対立させるよう仕向けたといわれています(「ベルサイユのばら」にも象徴的なシーンが出てきますね)。
また、父と共に各国を回っていた幼いモーツァルトがヴァイオリン伴奏つきチェンバロソナタを捧げた人物でもあります。
当時は人や物を表現するポルトレ(肖像)音楽が流行していました。音楽に思いを込めるというより、音楽によって物事をいかに美しく表現できるかを追求する。それは俗世と乖離し、美しさを追い求めたヴェルサイユの世界ならではの感覚だと思います。「ヴィクトワール」も、豪華な家具や洋服、貴族たちに囲まれて暮らした王族の華やかさが目に浮かぶような一曲です。


混乱期を生きてきた楽器

このチェンバロが作られた1765年はまだ絶対王政の時代でした。この後フランスでは、フランス革命、二度にわたる世界大戦など、何度も混乱期を迎えます。ブランシェ1世や2世が製作した楽器は世界でも数えるほどしか残っていません。現在、浜松市楽器博物館に展示されているこの楽器は、そういった激動の時代を生き延びてきた楽器です。そんな楽器が、何度か人の手を渡りながらも修復され、21世紀になった現在もその音色を聴かせてくれるというのは、まさに奇跡なのかもしれませんね。


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