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第15回 「長唄の会」の演奏会を楽しんで来ました

第4巻「長唄三味線」でその素晴らしい演奏を披露している松永鉄九郎さん(伝の会)の「長唄の会 浜松vol.1」の演奏会に行ってきました!

長唄の会 浜松vol.1 長唄の会 浜松vol.1
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「長唄の会」ってどんな演奏会?

長唄の会」は、松永鉄九郎さんが2013年より行っている演奏会です。
まずは、「長唄の会」を始められた松永さんの思いです。

松永鉄九郎
   「TEAM TETSUKURO」より
”今まで、長唄の素晴らしさをもっと気軽に知ってもらいたいと、楽しいトークや面白いアプローチをと心がけて工夫してきました。
今年になって「長唄は元々素晴らしい曲の集まりだから、純粋に演奏するだけで楽しい音楽なんだ」ということに、はたと思い至ったわけです。
気がついたらやらなければいけません。
ということで「長唄の会」始めます。
素の長唄の演奏会ってこと? いままでと同じ形じゃないの?
そう、でも違うのです。
いまの自分だからこその心構え、いまだからできる、やりたい会なのです。
限られた時間ですが、四曲お届けできるはずです。
長唄をもっともっと好きになっていただきたい!
ぜひお越し下さい。”  「尚雅堂のよかったさがし」より抜粋

何とかして素晴らしい長唄の世界を多くの人に知ってもらいたいという熱い思いが伝わってきます。 そして、私がお伺いした静岡県浜松市での「長唄の会」も、そんな松永さんの思いが伝わるような演奏会でした。

曲目

当日演奏された曲は、以下の4曲です。

・操三番叟(あやつりさんばそう)
・松の緑
・越後獅子
・鷺娘


初の浜松市での開催ということで、おめでたい曲や、有名な曲をお選び頂いたそうです。
今回は浜松でも活動していらっしゃる福原鶴十郎さん社中のお囃子が加わって、大変華やかな演奏会でした。

会場

会場となったのは、能楽や三味線、日本舞踊のお稽古舞台、小規模の発表会などに使われている「ゆりの木舞台」。
ここはなんと駐車場ビルの中にあるのです。エレベーターで4階に上がると、目の前に会場の入り口が出現。 こぢんまりとした素敵な空間です。街中の駐車場ビルの中にこんな空間を作った発想に驚きです。
チケットは早い段階で完売したとのことで、50席程の席は満席でした。

ゆりの木舞台 ゆりの木舞台

タテ三味線(立三味線)が作るアンサンブル

舞台の中央にすわるのがタテ三味線です。
タテ三味線とは、2挺(ちょう)以上の三味線で演奏する場合のいわゆるリード演奏者です。


松永さん:タテ三味線を務める人は、指揮者であり、第一バイオリンであり、責任者です。
他の人は、すべて、タテの人に合わせなくてはなりません。演奏のノリや節、タイミングなど、すべてタテの意思に従って合わせなければならないのです。
タテの人が調弦した音が少し下がっていたとしたら、他の人はそれに合わせる必要があります。
同じ長唄を演奏しても、タテの人が自分のノリで作っていくわけですから、誰がタテをやるかで、曲が違ってきます。


修行時代はもちろん一番下っ端から始まるのですが、合わせるのがとても大変で、最初はほんとうにおそろしかったそうです。まずもって、舞台に出てちゃんと音を出せるようになるまでに7,8年かかったとのことでした。
そして、自分は今タテ三味線を担当しているが、その面白さは、音楽をすべて自分で作り上げるというところにあるとおっしゃっていました。
もちろん、タテの人でなくても、みんなで一つの音楽を作り上げる喜びはあるでしょう。三味線があれば、唄の人と合わせると楽しいし、太鼓だって、笛や三味線と合わせると楽しいに違いありません。

今は音楽というと西洋音楽の方が多いかと思いますが、日本の文化の中に、ずっと長くこのようなアンサンブルの形があって、人びとは折に触れてそれを楽しんできたのですね。それを改めて認識して、もっともっと学校などでこの素晴らしい財産の存在を伝えていくべきだと思いました。誇っていい日本文化だと思います。

生の舞台は素晴らしい!

当日、松永鉄九郎さんは最初から最後まで舞台に上がりっぱなしの大奮闘でした。責任者として、三味線を弾いて、メンバーを引っ張って曲を作り上げ、合間のトーク(休憩時間)も全部自分で行われたのです。目一杯、全力投球です。
それに、何しろ幕がないオープンな舞台でしたから、終わったとき思わず倒れそうになるほど力を使いきった感じなのが、そのまま客席にも見えて、それがとても印象的でした。


「芸術というのは、演奏や作品に込めたエネルギーが見る人に伝わって感動を呼ぶ。」と日本画家の私の友人が言っていました。

今回長唄の知識が乏しい私でも感動を受け取れたのは、松永さんの演者として込められたエネルギーをすごく感じたからだと思います。
生の舞台というのは、そんなエネルギーを直接受け取ることのできるぜいたくな時間です。そんなことを思って華やかな演奏を堪能した演奏会でした。
そして、生の舞台をできるだけ多くの人に気軽に楽しんでもらいたいという松永さんの想いを十分に感じ取った会でした。


演奏会の様子は、企画、お手伝いをされた尚雅堂さんのブログにも掲載されています。

また、facebook(フェイスブック)「長唄の会」では、今後のイベント情報、そして松永鉄九郎さんの演奏やトークの動画が掲載されています。 こちらもぜひ合わせてご覧ください。



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第10回 「長唄三味線」DVDに載せられなかった”おまけ”

DVD第4巻「長唄三味線」はいかがでしたでしょうか?
長唄の世界を楽しんで頂けましたでしょうか?

本シリーズは浜松市楽器博物館のレクチャーコンサートの映像をもとにしていますが、1回のコンサートを丸々収録するわけにはいきません。 残念ながら制作の過程で割愛せざるを得なかった演奏曲や楽しいシーン、ためになるお話がたくさんありました。 また、こんな解説も加えたい・・・という内容も、様々な制約でボツ。

今回は、そんな載せられなかった “おまけ” のお話です。

おまけ その1 京鹿子娘道成寺の歌詞

京鹿子娘道成寺は舞踊曲です。歌舞伎のこの演目はやはり踊りを楽しむのが第一義でしょう。とはいえこの曲は、長唄の曲としても名曲とされています。


踊りだけで表現する舞台には、あまり複雑なストーリーは不向きですが、白拍子の花子が次々に披露する踊りにはそれぞれ唄がついているので、その唄を聞くと「あぁ、こんな踊りをやっているんだな」と心情が見えてきます。


さて、DVD収録曲は「まり唄」で、その歌詞は以下のようなものです。

京鹿子娘道成寺
   演劇博物館所蔵
    (No.101-6002)
まり唄

♪ 恋の分里武士も道具を伏編笠で 張りと意気地(いきじ)の吉原
花の都は歌で和らぐ敷嶋原(しきしまばら)に 勤めする身は誰と伏見の墨染


煩悩菩提の撞木町(しゅもくまち)より 浪花四筋(なにわよすじ)に通ひ木辻に 禿立ち(かむろだち)から室の早咲き それがほんに色ぢゃ 一ィ二ゥ三ィ四ゥ(ひいふうみいよう)


夜露雪の日 志もの関路(せきじ)も今宵此の身を馴染重ねて 中は丸山只丸かれと思ひ染めたが縁ぢゃへ ♪



最初に出てくる分里とは遊廓のことだそうです。 「分け」というのは、芸妓さんがお客さんから頂いた花代を店の主人と分けることで、それが語源となっているようです。
この唄には、江戸の吉原を振り出しに各地の遊廓が読み込まれています。 そして「嶋原にお勤めしている私は・・・ただ円満にと思い染めたのが二人の縁なんです」と遊女の言葉を借りて恋の想いを表現しているのですね。

役者さんは舞台が進むにつれてだんだんと妖気を漂わせてくる花子を演じ分けて、最後「鐘入り」の踊りで終わるのです。 そして花子は何度も衣裳を変えたりして大変華やかです。 その中には引抜(ひきぬき)といって舞台の上で一瞬にして衣裳を変える手法も含まれています。

歌舞伎を見に行くことは、江戸時代の人たちにとって、忙しい日常の仕事や家事を忘れる素晴しい時間だったことでしょう。 長唄をきっかけに、演奏と唄と踊りが一体となった生の舞台をぜひ見てみたいですね。


おまけ その2 せりふと音楽との関わり

DVDでは「浅草寺裏の場」で、お芝居と音楽との関わりを解説していますが、レクチャーコンサートでは、その他にもお芝居の中のせりふと音楽がどういう風に関わっていくのかを実際の演奏で見せてくれています。 お芝居は、もちろんせりふがとても重要ですからね。

このとき実演されたのは、歌舞伎「白波五人男」第4幕目、稲瀬川勢揃の場における日本駄右衛門のせりふで、稲瀬川に5人の盗賊が勢揃いして、日本駄右衛門が名前を名乗る場面でした。


白波五人男
演劇博物館所蔵(No.101-1052,101-1051,101-1050)

「問われて名乗るもおこがましいが、生まれは遠州浜松在(えんしゅうはままつざい)。十四の年から親に別れ…」と長々と名乗るのです。

別の「雪の下浜松屋の場」での弁天小僧菊之助の口上は、「声に出して読みたい日本語」(齋藤孝著)にも取り上げられている「知らざあ言って聞かせやしょう」で始まる有名なせりふなので、ご存知の方も多いでしょう。

三味線方はこのせりふの間をうまくぬって違和感なく演奏するのが腕の見せどころなのだそうです。


このやり方は、DVDの「解説付き浅草寺裏の場」にも現れています。 杵屋邦寿さんが解説している隣で、松永鉄九郎さんがそのしゃべりを邪魔しないよう絶妙に絡んで音楽をつけていらっしゃいますね。 身についたプロの技です。

浅草寺裏の場

ついでながら、DVD「解説付き浅草寺裏の場」の中で三人吉三の「月も朧に白魚の」というせりふを引用した場面がありますが、これは最後に「こいつは春から 縁起がいいわえ」で終わる有名なせりふです。


三人吉三
演劇博物館所蔵(No.101-2781,101-2782,101-2783)

旧暦の大晦日に厄払いをするために調子のよい七五調のせりふを言って回る習慣があったそうですが、これを歌舞伎に持ち込んだのが「月も朧に白魚の」というせりふや、先に述べた日本駄右衛門や弁天小僧菊之助の口上の言い回しでした。
日常の生活の中にある風景がお芝居にも持ち込まれていて、人々は身近な話として歌舞伎のドラマを楽しんだのですね。



さて、おまけのお話いかがでしたでしょうか。

長唄三味線の方たちは、出囃子と黒御簾のどちらの形で演奏するにせよ、常に舞台の上で繰り広げられる踊りやお芝居と一体となった演奏を求められました。
最初にご紹介した「まり唄」では、役者さんがまりを持って踊り、三味線方はその振りに合わせて演奏していくシーンがありますが、まりを持った役者さんがつまずいたりなど、舞台上ではいろいろなハプニングが起こることも・・。 三味線方の人たちはそんなハプニングにもちゃんと対処できるよう、様々なことを想定した演奏を考えてあるそうです。 そして長い時間の中で、そのアドリブにすら名人たちは名演奏を披露してきました。

またせりふにしても、ご紹介したようなせりふは今も文化の中に生きていて、長唄や歌舞伎を知らなくても、どこかで出くわしたりします。 私たちの歴史の中で蓄積された素晴らしいものが、過去のものではなく、ちゃんと今につながって活きているのです。

そんな歴史の中で膨大な広がりのある長唄の世界を、ほんの少しですが全体像が見えるような形でご紹介したのが、楽器の世界コレクションDVDシリーズ 第4巻「長唄三味線」です。
楽しんでお手元に置いて頂けますと幸いです。


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第8回 ”長唄”って何? ”長唄三味線”ってどんなもの?

本DVDの第4巻「長唄三味線」が発売されました!
第3巻「津軽三味線」に引き続き、”三味線”です。

そこで今回は、日本音楽のルーツである長唄について
「今さらちょっと人に聞けないぞ・・」 という基本情報をご紹介します。
これであなたの日本人品格UP! 間違いなしです! (^-^)

受け継がれてきた江戸文化

長唄は、17世紀末頃(この頃の江戸幕府将軍は、第5代 徳川綱吉(在任:1680-1709年))、江戸に生まれた歌舞伎音楽です。
元々は、歌舞伎役者のセリフに合わせて唄や三味線演奏で情感を表現したり、お囃子の太鼓で雨・風音を表現したり、幽霊の出るドロドロとした効果音を出したりと、様々な効果音を演奏する、BGMの役割をしていました。
それが幕末になると、「お座敷長唄」という純粋に演奏用としての長唄が作曲され、明治以降には歌舞伎から独立・発展し、狂言、浄瑠璃、流行歌、民謡、洋楽など、さまざまな要素を取り入れながら現在の姿へと成長してきました。

長唄は、約380年程の歴史の中で多様に発展を遂げた、まさに日本伝統音楽の集大成なのです。


長唄の種類

長唄は、演奏する場所によって2種類に分けられます。

所作音楽(出囃子:でばやし)

歌舞伎舞踊などで行われる、長唄やお囃子の演奏者が舞台正面奥の雛壇にずらりと並んで演奏すること。

下座音楽(黒御簾:くろみす)

舞台下手の黒い御簾がかかっている小部屋で演奏される、歌舞伎のBGM。


出囃子と黒御簾

長唄の構成

長唄は、唄と長唄三味線、お囃子(小鼓、大鼓、太鼓、笛などで、鳴物【なりもの】ともいう)の3パートで演奏されます。
その3パートの演奏形態は、下の3種類に分かれます。

・唄

演奏者のほとんどが伴奏をし、数人で唄を唄うもの。
独吟(一人)と両吟(二人)がある。
伴奏抜きで唄のみのものは、素唄(すうたい)という。

・合方

三味線演奏のみで演奏され、唄はない部分。
地歌・長唄・端唄のそれぞれの場面のつなぎ部分や、
純鑑賞曲として作られた合方曲もある。

・鳴物

単独で演奏したり、長唄連中と一緒に演奏することもある。
一定のリズムで演奏する曲や、舞台の状況や役者に合わせた見計とがある。

楽曲数は大変多く、現在でも次々と新曲が作曲されており、1曲の長さは短いもので1~2分、長いもので50分以上の曲もあります。


曲の構成は、物語のように「起承転結」があります。

1. 置き(おき)
置唄(おきうた)
情景や場面をイメージさせる、物語のプロローグ部分。
人物はまだ登場せず、無人で唄を聴かせる、前奏にあたる。
2. 出(で)
出端(では)
道行(みちゆき)
登場人物が現れる際の伴奏。
人物の役柄、状況の紹介をし、物語が本題に入る。
3. 口説
(くどき:恋愛物)
語り・物語
(かたり・ものがたり:戦闘物)
ゆっくりとしたテンポで心の内を切々と語る、
曲中で重要な部分であり、唄方にとって一番の聴かせどころ。
4. 踊り地(おどりじ)
太鼓地(たいこじ)
アップテンポで、賑やかな鳴物が入った手踊り、総踊りなどが踊られ、華やかな曲調に変化。
5. 散らし(ちらし)
段切(だんぎれ)
一段が切れる、つまり一つの演目が終わるという物語のエピローグ部分で、見得や花道の引っ込みなどを演出する。
この部分は、どこの流派でも大概同じような様式で演奏される。

長唄三味線

三味線は、大きく分けて棹の太さにより、細棹(長唄、荻江)、中棹(清元、常磐津、新内、一中、地歌、小唄、端唄)、太棹(義太夫、津軽)の三種類があります。 (民謡や現代邦楽の世界では、長さを短くした短棹もあります。)

長唄三味線は、棹は「細棹」、胴は一番小さくて軽いものに猫または犬の皮を張り、糸は絹を使用しています。繊細で美しい高音を出すことができ、明るく華やかな音色に特徴があります。
太棹に比べて音量は小さく、唄を引き立たせるような作りになっています。



伝統を受け継ぎながらも柔軟に発展してきた長唄。
そんな長唄そのままに、伝統的な三味線手法を取り入れながら、 聴かせる、笑わせるパフォ-マンスの「伝の会」のお二人による演奏、解説がぎっしり詰まった本DVD4巻。
きっと世代を超えてお楽しみ頂けることと思います。


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