楽器の世界コレクション_日本語サイト楽器の世界コレクション_英語サイト

第14回 楽器博探訪 その2 チェンバロの音とピアノの音

前回は「楽器博探訪その1」として、浜松市楽器博物館についてご紹介しましたが、「その2」ではチェンバロとピアノの音についてご紹介したいと思います。
スタッフの方に実演もして頂きましたので、ピアノとチェンバロの音の違いなどを、どうぞご覧ください。


チェンバロとピアノの音はどう違うんでしょうか? それぞれ弾いてみて頂けますか?

スタッフ:はい。では同じ曲をチェンバロとピアノで弾いてみます。


1750 ジェイコブ・カークマン
  実演に使用したチェンバロ
1750 ジェイコブ・カークマン



1995 クリストフォリ製ピアノの復元モデル
  実演に使用したピアノ
1995 クリストフォリ製ピアノの
    復元モデル


「ピアノ」は1700年頃、チェンバロ製作家のクリストフォリにより発明されました。
今回使用したピアノは、現存する3台のクリストフォリ・ピアノをもとに、1995年に復元されたものです。
このピアノは、音色はチェンバロと非常によく似ています。それは、チェンバロをもとにして中のアクションを変えて作ったのがピアノだからです。
ピアノを開発するに至った目的の一つが、チェンバロにはない「キーのタッチによって音の強弱をつける(フォルテからピアノの音まで出せる)機能を作る」ということだったと思われますので、音自体についてはあまり変化を求めなかったのかもしれません。


音量が変えられるかどうかということなんですね。
チェンバロは音の強弱を付けられないんですか?

嶋館長:チェンバロの音量が変わらないというのは、奏者の指のタッチでは変わらないという意味です。もちろん高級なチェンバロでは、ひとつの音を鳴らすのに、はじく弦の数を変えることで、音量を少しは変化させることができますが、タッチでは変えられないのです。
ピアノは奏者がキーを強く押すか弱く押すかで音量が変わります。
音量をタッチで変えれるかどうかということが、大きな違いです。

スタッフ:チェンバロはタッチによって強弱を出せないので、弦の数を変えて音量や音色を変えます。弦の数を変えるには、レバーや、上下の鍵盤や、時にはペダルで切り替えます。
曲の途中で瞬間的に雰囲気を変えることができるんです。こんな感じです。





左映像:
チェンバロの上鍵盤、下鍵盤、
ペダルを踏んだ時の音の変化

チェンバロが愛好された歴史は、15世紀から18世紀末までと大変長く、そのため外観や仕様、音色などもさまざまです。
一般的にはペダルのないタイプが主流ですが、後期にはイギリスでペダルを備えたものも作られました。
今回実演に使用したチェンバロは、1750年イギリス(イングランド)のカークマンが製作したものです。


チェンバロを弾くのは難しいですか?

スタッフ:そうですね。楽器によってさまざまな特徴があるので、それぞれの楽器を弾き分けるのは難しいです。


チェンバロの音は響き続けますか?

スタッフ:はい。鍵盤を押すと音が鳴り響いて、ピアノと同じようにだんだん音が減衰していって消えますが、指を離せばダンパーが下りて、すぐに音が消えます。


チェンバロを演奏する時には、どういうところに気を付けて弾いていますか?

スタッフ:私は専門ではないのであまりうまく弾けませんが、やはりフレーズの区切り方とか、メロディーの唄わせ方とか、チェンバロならではのものがあります。
チェンバリストの方は、きっといろいろなテクニックで工夫をされているのでしょうね。


ピアノを弾く時には何か気を付けていることはありますか?

スタッフ:意識しながら、強く出すところは出して、弱めるところは弱めて。その変化を楽しむというか、その変化をつけるのがピアノかなと思います。
それと、このピアノだと現在のピアノみたいにがんがん弾けません。力まかせに弾くと壊れてしまいます。今のピアノみたいに強いタッチでは弾けませんね。


ピアノの楽譜とチェンバロの楽譜は何か違いがありますか?

嶋館長:五線譜という点では同じですが、ピアノとチェンバロで違うというよりも、時代時代によって楽譜が違うんですよ。
チェンバロが盛んだった時代の楽譜というのは、楽譜に書いてあることは少なくて、チェンバロ奏者が自分でその楽譜にいろいろと付け加えて弾いていました。
しかしピアノという楽器が発明されてから現代に至るまで、作曲家が楽譜にびっしり書き込むわけですね。
ですから演奏家の人はあんまりそれ以外のことを弾いてはいけないと、そうなってきていますね。
もちろんケースバイケースで、そんなことはないのですけどね。

ピアノとチェンバロだけじゃなくて、フルートでもバイオリンでも、昔は簡単な楽譜でしたが、今はびっしりと書いてあります。そういう違いでしょうね。
チェンバロの楽譜をピアノでも弾けるけれども、音楽はチェンバロの響きに合ったようにできているので、ピアノで弾いても良い響きが出るとは限らない。
逆に今のピアノの楽譜をチェンバロで弾こうとしても、音が足らないとかね、いろいろあるわけですよ。
例えば、チェンバロでゆっくりとした曲は演奏できますが、速い曲は無理、とかね。そもそも音楽が違うんです。



貴重なお話をありがとうございました。

2回に渡って浜松市楽器博物館をご紹介しましたが、その魅力がお伝えできたましたでしょうか?
世界全域のさまざまな楽器を3000点以上収蔵し、世界第一級規模を誇る浜松市楽器博物館。
みなさんもぜひ足をお運びください。 (^-^)

楽譜についての解説は、「第11回 ピアノとチェンバロの違い – 楽譜編 -」にも載せておりますので、合わせてご覧ください。

チェンバロの音をもっと聴いてみたい、見てみたいという方は、ぜひ当シリーズのDVDを手にとってご覧ください。
第1巻「ブランシェのチェンバロ」は、1765年にパリでブランシェによって製作され、今も華麗な音を響かせているチェンバロについて、演奏と解説でご紹介しています。


« 音楽雑学ブログ 一覧へ

第12回 ピアノとチェンバロの違い – 楽譜編 –

ピアノとチェンバロの楽器の違いについては、「ピアノとチェンバロの違いを、分かりやすく解説!」でご紹介しました。
発音の仕組み、音の特徴、演奏技法、鍵盤数、などなど・・、ピアノとチェンバロはまったくの別物だ!という程のたくさんの違いがありました。

しかし、例えばチェンバロ用に作られたJ.S.Bach(バッハ)の曲など、現代ではチェンバロ曲をチェンバリストでなくてもピアノで一般的に演奏しています。
楽器自体の特徴がこんなに違うのに、もし同じ楽譜なら全然違う曲になってしまいそうな・・?

そこで今回は、「ピアノとチェンバロの違い – 楽譜編 – 」として、当時の原典版の楽譜と、現在ピアノ用に市販されている楽譜の違いを見て行きたいと思います。


通奏低音

実はチェンバロは、通奏低音(つうそうていおん)という主にバロック音楽において行われる伴奏形態で演奏されています。

通奏低音とは、楽譜上には低音部の旋律のみが示されているもので、演奏者はその通奏低音に適切な和音を付けて演奏するのです。


通奏低音
数字付き低音とそのリアライズの例
Wikipedia より
記譜された音に和音を付け加える作業(リアライズ)を補助するために、音符に和音の構成音の記譜音からの音程を示す数字を付けてある数字付き低音もあります。
なんだかコードネーム(和音記号)と似ていますね。

数字は低音からの音程の度数を表すもので、例えば”3″とあれば、低音の上3度の所に音があることを示しています。
ただし、実際にそれらの音をどのオクターブに置くかは演奏者に任され、演奏者は和声的に正しくなるように、4声や3声で演奏しなければなりません。
当然和声的な正しさだけでなく、音楽的に優れたものであることが要求され、且つ、アレンジした自由な装飾を付けることも求められるのです。

その他にも、原典版(作曲者が書いただけ)の楽譜には強弱記号もスラーも指番号も、曲調を構成する指示すら書かれていません。
そのため、実用性を求める声に応じて、作曲者の弟子たちや楽譜編集者たちによってだんだん手が加えられ、現在のピアノ楽譜のような「解釈版」の楽譜が出て来ました。
ということはもしかしたら、現在の “とっても親切” なピアノ楽譜は、当時の作曲者本人たちのイメージと違うかもしれませんね。

原典版の楽譜で演奏するチェンバロは、演奏者によって、また同じ演奏者でも毎回1つとして同じもののない、即興での演奏なんですね。
次にチェンバロの演奏を耳にする機会には、ぜひその即興演奏にも注目して聞いてみてください。


« 音楽雑学ブログ 一覧へ

第7回 ピアノとチェンバロの違いを、分かりやすく解説!

Cembalo(チェンバロ:ドイツ語)は、Harpsichord(ハープシコード:英語)、Clavecin(クラヴサン:フランス語)、Clavicembalo(クラヴィチェンバロ:イタリア語)とも呼ばれることがあります。

チェンバロの起源は明らかではありませんが、1397年に書かれた書物にチェンバロについて記載されていることから、少なくとも600年以上の歴史があるものと考えられます。
バロック時代(1600~1750年)の全盛期には、宮廷音楽に用いられ、とても華やかに時代を彩りました。
しかし18世紀末になると、ピアノの発明と急速な発展により、チェンバロの人気は衰えていきます。

ピアノとチェンバロは形も似ていて、どちらも鍵盤を指で押さえて演奏しますので、見た目にはあまり変わらないように見えます。
何か違いはあるのでしょうか?

ピアノとチェンバロの違いについて、分かりやすく解説しちゃいます!


違い その1.「音を出す仕組み」

ピアノはハンマーで叩いて弦を振動させて音を出す「打弦楽器(だげんがっき)」、チェンバロは爪で弾くことによって弦を振動させて音を出す「撥弦楽器(はつげんがっき)」です。
ピアノの音が「ポーン」ならば、チェンバロは「チーン」という感じです。

チェンバロは、ピックで弾くギターや、爪で弦を弾く琴に近く、下図のように、鍵盤を押すとプレクトラム(ツメ)が弦を弾くという方法で音を鳴らします。


違い その2.「音の特徴」

チェンバロの演奏では、ピアノの演奏にはない「サッ」という音が聞こえます。これは、ジャックがジャック自体の重みで落ちる(ジャックが戻る時の)音がわずかに出るためです。(ジャックが戻る時は、プレクトラムが弦を回り込むようになっているので、再び弦が弾かれることはありません)

また、チェンバロ程たくさんの倍音(ばいおん:基本となる音の周波数の倍の周波数を持つ音)を含む楽器はない、と言われる程、チェンバロはピアノよりはるかに多くの倍音成分を含んでいます。
これもチェンバロの音の特徴で、チェンバロらしい音色を構成する要素の一つになっています。
ピアノはこの倍音をできるかぎり少なくし、純正の音のみをキレイに出せるように作られたと言われています。(強い音で弾いたり、ペダルを使用すると倍音が増えますが)


違い その3.「演奏技法」

チェンバロはその構造上、音の強弱を付けることができません。それが初期のピアノであるフォルテピアノの発明に至る一因にもなりました。
フォルテピアノは強い音(フォルテ)も弱い音(ピアノ)も出せる、そして音を長引かせるペダルもある、チェンバロにはない特徴を持った画期的な楽器だったのです。

チェンバロは、音の強弱ではなく、アーティキュレーション(それぞれの音の結び付け方や区切り方)や、アゴーギク(速度を速くしたり遅くしたりと微妙に揺らし、音の表情や動きに変化をつける技法)を駆使して、繊細なタッチとしなやかなリズム感を表現して演奏します。

ブランシェのチェンバロ
▲ DVD1巻で取り上げているチェンバロ
プレイエルのピアノ
 ▲ DVD2巻で取り上げているフォルテピアノ

違い その4.「黒鍵と白鍵」

初期(18世紀以前)のチェンバロは、現在のピアノと同じようにシャープ・フラットの鍵盤が黒色のものがほとんどです。
しかし、本DVD1巻で取り上げているブランシェのチェンバロをはじめとした18世紀のモデルは、それとは逆で、現在のピアノの白鍵の部分が黒色、黒鍵の部分が白色になっています。
白鍵・黒鍵が逆転したこのタイプが、チェンバロとしては一般的によく知られています。

なぜ白鍵・黒鍵が逆転したのでしょうか?
それには諸説ありますが、主に以下の3つの理由と考えられています。


・弾き易さ

チェンバロの鍵盤はスプリング等の装置ではなく、鍵盤自身の自重で待機位置に戻ります。
したがって、表に出ている鍵盤よりも裏の鍵盤部分の方が重くなければ戻りません。
つまり、重い象牙で作られた白鍵はキー全体が重くなり、軽い黒檀(こくたん)で作られた黒鍵はキー全体の重量が抑えられるのです。
この重量の違いはわずかなものですが、演奏するとタッチの違いが感じられ、長時間演奏すると明らかに指や手の疲労度が違ってきます。
ですから、重たい白鍵を、数が少ないシャープ・フラットキーに使用しました。

・手を映えさせるため

この時代の貴族の女性のたしなみとして、チェンバロ演奏することが流行しました。
白い肌が絶対的な美徳とされたこの時代。女性は顔だけではなく手にもたくさんの白粉をはたいています。
そんな女性たちの手が、より白く美しく映えるよう、数多い方の鍵盤を黒くしたそうです。

・コストを抑えるため

白鍵は「象牙」、黒鍵は「黒檀(こくたん)」や「紫檀(したん)」という木で作られていました。
共に高価な物でしたが、特に象牙は当時「金」と同じくらい入手困難で高価だったそうで、コストを少しでも抑えるため、数が少ないシャープ・フラットキーを象牙の白鍵にしました。
(現在のピアノの白鍵は、プラスチックを使用しているものがほとんどです。)


以上のように、演奏上、見た目、経済的理由があっての逆転だったんですね。

では、そのように考えられて作られた白鍵と黒鍵が、なぜ再び逆転し、現在の形になったのでしょうか?

それは、

1. 視覚的に「白」は浮きあがって見え、「黒」は引っ込んで見えるため、
  実際に張り出しているシャープ・フラットキーを黒くした方が見た目のバランスが良く、安定感が出る

2. 白を主体とした方が明るく、見た目で好まれることが増えた

からだそうです。


違い その5.「鍵盤の数」

チェンバロはモデルによって様々で、1段鍵盤や2段鍵盤のもの、さらにまれに3段鍵盤になっているものがあり、音域は4~6オクターブです。
以降、徐々に鍵盤数が増え、現在のピアノは1段鍵盤の88鍵(7オクターブ強)に落ち着いています。

なぜ88鍵なのでしょう?

それには、ちょっと科学的な理由があるのです。
人間の耳が聴きとれる周波数は20~2万ヘルツと言われていますが、その中で音程を聴き分けられるのは、だいたい50~4000ヘルツくらいです。
88鍵の一番低い“ラ”の音は27ヘルツ。一方、一番高い“ド”の音は、約4200ヘルツ。
つまり、これ以上鍵盤を増やしても、人間の耳にはノイズにしか聞こえないので、88鍵盤になっているのです。


違い その6.「ビジュアルへのこだわり」

チェンバロは貴族のための楽器でした。
宮殿や教会、庭園、そしてドレスなども豪奢を極めたバロック時代。その時代の家具と調和する楽器として、音色のみならず装飾も繊細に、華麗にとされました。
つまり楽器としてだけではなく、芸術品としての意義もあったわけです。

その後、農業革命や産業革命などのブルジョワ(中産階級)の台頭と共に発展したピアノは、中産階級向けにコストを抑えるため、装飾を省いたシンプルなものが主流となりました。


違い その7.「調律」

チェンバロの弦の張力はピアノよりはるかに弱くなっています。
そのため弦が緩む頻度もピアノより頻繁になり、演奏者は演奏のみならず、演奏の都度、自ら調律する必要があります。



どうですか?
一見そっくりに見えるピアノとチェンバロですが、実はこんなに違いがあるんですね。
そもそも音の出る仕組みからして違うのですから、両者はまったく別の楽器と言えます。

ピアノはチェンバロを元にして考えられましたが、チェンバロの進化したものがピアノ、ではなく、チェンバロとピアノは別物だということです。

本DVDでは、演奏しているの手元の映像なども収録され、間近でチェンバロを体感して頂くことができます。
華麗なチェンバロの響きに、ぜひ耳を傾けてみてください。
チェンバロならではの魅力が、きっとあなたにも伝わることと思います。


« 音楽雑学ブログ 一覧へ

第5回 ショパンとプレイエルのピアノ


今回は、当シリーズ第2巻に収録されている「プレイエルのピアノ」についてです。 このピアノは、19世紀のピアノの詩人フレデリック・ショパンが愛用したことで知られています。プレイエル社の歴史はショパン抜きに語ることはできず、またプレイエルのピアノなくしてショパンの名曲の数々はなかったのではないかと言われるほどショパンとプレイエルのピアノは深い関係性があるのです。

ショパンとカミーユ・プレイエル

ショパンが祖国のポーランドを離れ、1831年に21歳でパリにきたとき、当時のピアニストの第一人者として広く知られ、またプレイエル社の役員として経営にも携っていたフレデリック・カルクブレンナーの演奏を耳にします。ショパンはこの時プレイエル・ピアノの音色の美しさや、静かで表現力豊かで魅力的なタッチに深く魅了されました。 やがてプレイエル社2代目社長、カミーユ・プレイエルによってショパンの才能が見出され、深い友人関係となり、名高いプレイエル社のサロン「サル・プレイエル」での演奏会でショパンは歴史的なパリデビューを飾ります。 ショパンがパリで行った4度の公式コンサートは全て、このプレイエルサロンで行なわれました。 ショパンとカミーユ・プレイエルは、親交を深め、ともに若かりしころロンドンにて豪遊したり、ショパンの結核治療(マヨルカ島での転地治療)の際には、プレイエル社との「24の前奏曲」作品28の出版契約により、プレイエルがその資金援助をしたとも言われています。 また、ショパンの葬儀においてその棺を担いだ四人の内の一人が、カミーユ・プレイエルだったそうです。


ショパン時代のプレイエル・ピアノの特徴

・鍵盤が軽い

・繊細でやわらかく澄んだ音色で、音量があまり出ない反面、弱い音でも音色が変化する

・高音にいくほど音量が小さい

ショパンのピアノ楽譜は、高音域へいくに伴って、クレッシェンドが書かれてることがよくありますが、これは音を大きくするという意味ではなく、プレイエルのピアノで弾く前提で、高音域に移行しても同じボリュームを保つためにクレッシェンドで弾く・・という意味だそうです。

・音色が美しく、「シンギングトーン」と呼ばれる歌声のような伸びのある響き

・鍵盤が完全に上がりきらないと次の音が出ない(連打ができない)

当時プレイエル社と並び、エラール社のピアノも有名でしたが、音量もあるエラールはリストが好んで弾いたことで知られています。エラール社が開発したダブル・エスケープメントの機構(グランドピアノで連打を可能にする仕組み)によって素早い連打が可能になり、それにより、リストが「ラ・カンパネラ」を改訂したと言われています。このダブル・エスケープメント機構は、現在でも世界のグランドピアノで採用されています。

・まるで美術品のように繊細で美しいデザインで、品格が非常に称賛されていた


ショパンのプレイエル・ピアノへの想い入れ

ショパンが晩年(1849年・39歳で死去)所有していたピアノは、プレイエル、ブロードウッド、エラールの三台でしたが、ある弟子に語った「疲れているとき、気分のすぐれないときにはエラールのピアノを弾く。気分が良く体力があるときは、プレイエルのピアノを弾く。」という言葉がとても有名です。 これは決してエラールピアノが劣っていたということではなく、プレイエルピアノが僅かなタッチによってすら応える表現力をもっていたのに対し、エラールは逆に多少乱雑に弾いてもそれなりに破綻せず、美しく鳴るピアノであったからです。ショパンは繊細な自分のタッチを完璧に表現してくれるプレイエルピアノに、とても深い想い入れがあったのです。
28歳の時(1838年)、ショパンは恋人のジョルジュ・サンドとマヨルカ島へ移り、約1年滞在します。これはスキャンダラスな噂が取り巻くサンドと付き合いだしたことによる人々の好奇の目を避けるためと、ショパンの結核療養のためでした。 ショパンのために、滞在先のバルデモーザ修道院にはマヨルカで作られたピアノを運び入れられたのですが、ショパンは「どうしてもプレイエルでないと嫌だ」と言ったそうです。そこでカミーユ・プレイエルに直接交渉し、プレイエルとサンドの資金援助によりプレイエル・ピアノをマヨルカまで届けさせたというエピソードも残されています。


絵画とプレイエル・ピアノ

19世紀のフランスでは、音楽が一般にも広がり始め、特にブルジョア等の裕福な家庭では、その令嬢達にピアノを習わせる事が一つのステータスとなって流行していました。 そんな時代のフランス印象派の代表画家、ルノワール(1841-1919年)は、ピアノを弾く人物をモチーフにした絵画を5点残しています。 最も有名な「ピアノに寄る少女たち」(写真 左)にはプレイエル・ピアノが描かれており、プレイエルが一世を風靡した時代を今に伝えています。

ルノワールとピアノ
Pierre-Auguste Renoir
Girls at the Piano, 1892
プレイエルピアノ
左絵に描かれたプレイエルピアノ、ロマンティカの復刻版
画像:プレイエル社カタログより

当時も今も多くの人々を魅了し続けるプレイエル・ピアノ。
あなたも本DVDでその魅力に触れてみてください。


« 音楽雑学ブログ 一覧へ

ページトップへ戻る